「社会的処方」という優しい医療 〜人と人がつながることで、心と体が元気になる〜

「先生、銭湯が楽しみなんです」
そう話してくれたのは、長年うつ気味だった女性でした。
きっかけは、私が紹介した“お風呂”でした。
銭湯から広がる「地域の処方箋」
住之江区北加賀屋にある築60年の銭湯「寿楽温泉」。
私たちはこの銭湯を地域の宝として継承しました。
薪で焚いたやわらかな湯に包まれ、地元の人たちが笑い合う。
そんな風景が、今も変わらずここにあります。
ここでは、お正月のピザ焼きや夏祭り、ワインガーデン、演奏会のほか、
訪問看護師による「健康相談室」や「百歳体操」など、心と体を温める催しを続けています。
お湯だけでなく、人のぬくもりを分かち合う場所として、地域に息づいています。
介護・福祉・医療が寄り添うまちづくり
銭湯のほかにも、ユマニチュードの勉強会、認知症カフェ、
アニマルコンパニオンによる癒しの活動、地域運動会やマラソン、
ゲートボール大会など、健康と交流を育む取り組みを広げています。
そして、認知症型グループホームの入居者さんが店員となって運営する
「みんなの家カフェ」では、来訪者との穏やかな会話と笑顔があふれています。
注文を間違えても、そこにはやさしい笑いが生まれる。
支える側・支えられる側を越えて、人と人がつながる空間です。
また、運動施設「ウェルネスラボ」では日々の交流を促し、
しらなみデイサービスではお風呂の一般開放を行っています。
これらの拠点をつなぐだれでもバス(地域巡回バス)が走り、
奈良の「葛城ベース」では野菜づくりを通じて、自然とのつながりを楽しむ人も増えました。
医療が「居場所」を処方する時代へ
「人とのつながり」こそが、心と体を元気にする力です。
イギリスでは、医師が患者を地域のボランティア活動や園芸クラブ、音楽会などへ紹介する
“社会的処方(Social Prescribing)”という制度があります。
薬ではなく、「居場所」や「仲間」を処方する。
孤立を防ぎ、人生の喜びを取り戻すための新しい医療のかたちです。
私たちもまた、この街で「人が人を元気にする医療」を育てていきたい。
そう願いながら、今日も湯けむりの向こうに、笑顔の輪を広げています。