「職員紹介」 看護部 副部長

2024年4月25日

認知症ケア専門士、ユマニチュードプロジェクトリーダー
永見 香織

ユマニチュードは、
患者様への想いをひとつにしてくれました。

★今年も多くの方が入職されました。
ユマニチュードの説明は、どのように行いましたか?

オリエンテーションの時に「ユマニチュードとは、主に認知症の方のためのケア技法であり、患者様を病人ではなく人間として接することが基本です。
あなたを大切に思っていることを相 手にわかるように伝える「4つの柱」とケアをひとつの物語のように完成させる「5つのステッ プ」で構成されるケア・コミュニケーションであること。南港病院の理念である「笑顔ですば らしい対応と優しさ」につながるものであることを伝えました。
4 月1日よりweb 研修を月に2回発信し、理解の促進を進めています。

 

★南港病院がユマニチュードを取り入れたのは2019 年と聞きました。最初の印象はいかがでしたか?

医療の現場、特に看護の現場はとにかく忙しいんです。
そんな状況の中で、ゆっくりと話すなんてできるのか。1 人の患者様だけに時間を使うことになるが、それは良いのだろうか。正直なところ、最初に抱いた印象はあまり良いものではありませんでした。
当時はまだ点滴の針を抜いてしまう患者様に対し身体拘束が行われていました。もちろん、やりたくてやっているわけではありませんが、危険行為につながるので仕方なく。
それが、ユマニチュードに取り組む中で、どうすれば危険行為を回避できるか、をみんなが考えるようになっていったのです。
それまで私たちと接することを拒んでいた患者様が、ノックによる出会いの準備を続けることで、明らかに受け入れが良くなったこともありました。
患者様の変化を目の当たりにして、スタッフの気持ちもぐっとユマニチュードに傾いていきました。
言われたからやるのではなく、自発的に取り組むように変わっていったのです。今では、みんなが当たり前のこととして実践しています。

 

★ユマニチュードを取り入れて、いちばん変わったところは?

「患者様の立場に立つ」ということを徹底したという点でしょうか。
仕事が忙しくなると、どうしても早口になってしまいます。
何度も同じことを言っていると、声が大きくなってしまうことも。
それが、患者さんの立場になって考えることで、どうすれば伝わりやすいか。
言葉遣いや内容を考えながら話すように変わりました。
みんなここまで試行錯誤しているのか。その変化は感動的なものでした。
病院のある北加賀屋は、高齢の方が多い地域です。
入院される患者様も、75 歳以上が7 割を占めています。
そして、ほとんどの方が認知症を患っています。
入院で生活環境が変わることで、物忘れが進んでしまうこともあります。
それを食い止め、再びご自宅で生活できるようにしたい。
その中で大きな役割を果たすのがユマニチュードである、と考えています。

★ユマニチュードは、関わるすべての人間関係を良くする。

ユマニチュードと積極的に取り組むようになってから、患者様の話をよくするようになりました。
この人にはどう接したらいい、そんな話し合いをナースステーションでよく見るようになりました。
患者様に対して「同じ方向を向ける」ようになったのです。このことにより、患者様への理解が深くなり、効率的なケアを実践するスピードも上がっていきました。
スタッフ間のコミュニケーションが円滑になることで職場に良好な関係が築かれ、思いやりに富んだ穏やかな環境が生まれています。

★前向きな実践が実を結び、3 階病棟が日本ユマニチュード学会「ブロンズ認証施設」となりました。日本で4 事業所目となるこの栄誉について、感想を聞かせてください。

みんなで力を合わせてやってきたことが評価されたので、感動しました。日本ユマニチュード学会によるブロンズ認証の規定としては「ユマニチュードに組織を挙げて取り組む体制が出来上がっており、職員がユマニチュードの基本を理解し、実践に取り組んでいる組織」とあります。
認証取得後、現場を視察した評価調査員が重視したのは「統一された記録」だったそうです。
これは、1 人の患者様が入院~退院し、自宅で過ごすまでを克明に記録したもので、患者様の願いをかなえるために、スタッフがどんな計画を立てどんな取り組みをし、結びついた成果について誰が見てもわかるように記述することが求められます。
南港病院は「地域包括ケア」を掲げ、実践するために多職種連携を図っています。
その際に、 必要となるのが取り組みを共有するための「記録」なのです。見ることでチームを組むスタッフはもとより、担当外のスタッフも自分の行動として取り入れることができます。
それが、他の患者様と向き合う際の参考にもなるわけです。丁寧な記録を残すことは時間がかかります。
でも、その苦労以上に患者様の役に立つことを知ることができたのもブロンズ認証の成果だと思っています。

 

★ユマニチュードプロジェクトメンバーとして、今日まで取り組んできて思うことは?

ユマニチュードと取り組むことで得た成果、それは患者様との間だけでなくスタッフとの間も良好なものに変えてくれました。常に人が喜ぶことを考えて行動するように変わったのです。
病気になった患者様は、不安と孤独でいっぱいです。ユマニチュードは、そんな方の心の支えや癒やしになると信じています。
また、ユマニチュードは「誰かの役に立ちたい、チカラになりたい」と看護の世界に入ってきた当時の気持ちを思い出させてくれました。業務の忙しさにかまけて手薄になってしまった「看護師の基本」を振り返ることができました。現在、個人的に緩和ケアに興味があります。
また、認知症ケア専門士の資格を取得するなど、新しい関心が生まれたり。私に、看護師としての原点を振り返らせ、さらに進む方向まで示唆してくれた。
これもユマニチュード効果ではないでしょうか。

 

★ユマニチュードを通して、これからどんな組織をめざしますか?

ユマニチュードを特別なものではなく、当たり前のように普通に行われるようになると良いですね。やらされているのではなく、自分たちで考え取り組んでいくようにしていきたい。そうすることで、働きやすい環境が生まれたり、部署を超えて意見が言いやすくなる。結果として、それが患者様のためにつながっていくことでしょう。相手を思うことと患者様ファーストが、ユマニチュードの定義。これを徹底し、みんなが同じ視線を持つようになれたら、病院としての価値もこれまで以上に向上すると考えています。


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