【大阪】笑顔測定器で毎日測定。目指すは笑顔日本一の病院!-三木康彰・南港病院理事長らに聞く◆Vol.2

2021年6月7日
南港病院理事長・三木康彰氏

医療・介護分野で幅広く事業を展開する南港病院(大阪市)は、「笑顔で日本一の病院を目指す」という目標を掲げており、診療だけでなく人材確保にも効果を上げているという。その背景や、目指している新しい病院運営の在り方について、理事長の三木康彰氏や病院スタッフに話を聞いた。(2021年3月2日オンラインインタビュー、計2回連載の2回目)

医療・介護の業界は、人材不足が課題です。南港病院ではどのような対策をされていますか。

三木 病院のスタッフが優しくて働きやすい雰囲気をできるだけ分かっていただけるようにホームページを刷新してから、ホームページを見た求職者が増えました。おばあちゃんが乳がんを患い当院でみとったことから恩返しに来たという看護師や、専門は違うが、当院で地域医療を勉強したいという医師もおられます。

特に介護現場のストレスや人材不足が問題となっていますが、高齢者をケアするときに、たまたま認知症や脳梗塞を患った人間をケアするのだと考え、若いころはどんな事をしてきた人なんだろうかと想像しながら仕事をすると楽しいのではないでしょうか。当事者の一人一人に焦点を当てて、お一人お一人の人生や、してきたことを尊重しているでしょうか。介護の現場ではみんな平等にとか、施設のルールなどをご高齢の方に押し付けてしまいがちですが、画一的な平等よりもその人に応じて対応を変えることが大切です。個別の対応をすれば、その人の介護ができてうれしいという気持ちになれると思います。

「笑顔で日本一の職場を目指す」とも標榜されています。笑顔にはどんな効果があるのでしょうか。

藤川 看護師の私は入職して5年になります。当院の見学に来たとき、廊下を歩いていても、忙しい救急外来でも、スタッフの皆さんが感じのいい笑顔で「こんにちは」と声を掛けてくださいました。「どうしてそんなに笑顔がすごいんですか?」と尋ねると、「うちの理念です」と話され、絶対この病院で働こうと思いました。実はこの5年の間には、辞めたくなったこともあります。でもよくよく考えると、個々のスタッフの誰も嫌じゃない。医師を含め皆さん話しやすくて、他にこんな病院があるだろうか?と振り返り、ここを辞めるのは惜しいと思って踏みとどまったことがあります(笑)。

笑顔測定器という機器を導入しているそうですね。

マスクの下に隠れる笑顔を写真で表現した名札

三木 なかなか高度医療や手術で日本一は目指せないけれども、笑顔でならできる。笑顔で日本一を目指そう!と2009年に測定器を導入しました。笑顔測定器は、コンピューターが笑顔を点数化してくれるのです。カウンセリングを学んだときの仲間であるオムロンに勤める知人が開発したものですが、「幸せだから笑顔になるのではなく、笑顔だから幸せがやってくるのだ」と言われています。

佐原 出勤すると毎日、機械の前で笑顔の測定をしています。新年会のときには、点数を競い合うゲームをしたりもします。笑顔は相手を穏やかにしてくれますね。特に今はマスク状態なので、口角を上げても見えないので、目が笑っていないと伝わりません。笑顔測定器の点数が低いと、自分では笑っているつもりでも表情が硬かったのだなということが分かります。できたら90点以上出したいので、家でも練習したりしているのです(笑)。

三木 患者さんや外部の人から、「この病院は笑顔が多いね」「すれ違うときもニコッとしてくれてうれしい」などの声をもらうようになりました。一般の人にとって病院はできれば行きたくない場所です。笑顔で垣根が低くなれば、いろんな人が来てくれるし、手遅れになる前に相談にも乗れるだろうと思います。

マスクの下に隠れる笑顔を写真で表現した名札

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受け、多くの病院が運営・経営に打撃を受けています。南港病院ではどのような対策を取っていますか。

三木 2020年2月14日から発熱外来をオープンしています(2021年2月末までに2944人受診し、陽性271人)。マスク・手洗いの効果もあり、COVID-19感染拡大以降、インフルエンザは1件しか診ておらず、風邪の受診も減りました。しかし、内科医だけでなく、小児科医も成人の発熱外来を手伝ったり、高齢者施設の巡回や訪問診療に行ったりするなどの協力をしてくれています。病院に入院すると家族が面会できなくなることから入院件数も減っているので、在宅の診療部門を手厚くして、病院外に出るなど、新しい考え方、やり方をしましょうと院内でも話をしています。陽性患者さんの入院の受入もしており、毎朝の全体カンファレンスにも参加者が増え、チームワークも向上してきたと感じています。

マスクで顔が見えないので、名札に大きな写真を付けて笑顔を写真で表現する工夫をしたり、病院独自のFIGHT COVID-19のバッジを作ったりもしています。病院の外に、「頑張ろう!」ののぼりを立てたり、夜はイルミネーションを点灯したりしており、地域の方から「勇気をもらっています」など喜ばしい応援の声をいただいています。

FIGHT COVID-19ののぼりやバッジ、イルミネーション

三木理事長がこれまでのキャリアの中で大切にしてきたことを教えてください。

三木 外科医として大学や基幹病院では診療や手術をさせていただきました。南港病院に入職し、この地域で求められることは何かを考えつづけてきました。麻酔科や心療内科の領域も担う必要にかられました。「置かれた場所で咲きなさい」という言葉がありますが、必要とされることのためにキャリアを変えてきたおかげで、いろいろな考え方や受け止め方を勉強でき、診療の幅も広がり知り合いや仲間ができて人生が広がりました。幸せなキャリアだと思っています。

10年ほど前、心療内科の外来を始めるにあたって、学会に入って講習を受け、カウンセラーや精神薬の勉強をしました。自分も不安でしたが、周囲からも反対する声がありました。しかしよく考えたら、誰しも最初は不安だったはずです。勉強会や講習会にも出掛けることを続けはじめて、3年目くらいから、心の病気について、こういう段階でこういう方法でお薬を出していけばいいのだと分かってきたように思います。患者さんの声を聴くことで、さまざまなことを勉強させていただいています。

当院では、医療・介護のほか、障害のある子どもさんの支援も行っています。地域で必要とされることは何かといつも考え、自分たちが専門としてきたことや、やりなれたことにこだわらず、求められている新しいことを勉強して行動していかなければ成長はなく、法人として生き残っていけないとも思っています。

今後の展望を教えてください。

三木 高齢化とともに亡くなる人も増えていきます。COVID-19のように想定外のことも起こるでしょう。時代に応じて必要とされる診療やケアをできるだけ早く展開していくことが大事だと考えます。

患者さんがほっとする温かい安全、安心な場所を作っていきたいですね。大阪は子どもの虐待が日本一多い都市という統計があります。当院には小児科や産婦人科もあるので、皆で虐待や発達障害についても勉強していきたいし、地域の子どもの相談役にもなりたいと思います。そしてやがて相談した子どもが当院の医師や看護師、介護士として仕事をしてくれると良いなと妄想しています。病院の新築移転の計画もあり、これからも楽しみにしています。

◆三木 康彰(みき・やすあき)氏

1984年川崎医科大学卒業。大阪大学医学部第一外科に入局し、はびきの医療センター(旧大阪府立羽曳野病院)外科、大阪病院(旧大阪厚生年金病院)外科、大阪大学第一外科教室勤務を経て、日生病院、東大阪市民病院外科、紀南病院(旧社会保険紀南綜合病院)外科医長を務める。1998年南港病院外科に入職。2005年同病院院長に就任。日本外科学会指導医、日本乳癌学会認定医、日本麻酔科学会認定医、日本医師会認定産業医、日本心療内科認定医、大阪大学医学博士、アンガーマネージメントファシリテーター、日本小児科医会「子どもの心相談医」など。

【取材・文=前田真理(写真は病院提供)】

出典元 m3.com

URL:https://www.m3.com/


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